FEMにはどういう特徴がありますか?

ここでは“工学問題の解析手法”としての有限要素法(FEM)の一般的な特徴を説明します。FEMの優れた点を述べるとともに、FEMの持つ問題点についても説明したいと思います。

1. FEMの特長

(1) 精度コントロールが可能な近似解法である

FEMは、離散化(メッシュ)モデルを用いた「近似解法」であるため、解の精度(すなわち誤差)の問題が必ずつきまといます。不適切なメッシュでは、精度不良の結果しか得られません。とりあえず初期メッシュを作成したとしても、解析結果がどのくらいの誤差を含んでいるのか、またどうすれば誤差を減らして精度を改善できるのか、こういう点に関して指針が得られなければ、実用的な解析手法として安心して使えません。FEMでは、

・精度の改善が可能である

FEMの近似解(有限要素解)は、要素サイズを小さくしていく「h法による改善」か、高次の要素補間式を用いていく「p法による改善」によって、次第に厳密解へ近づく(収束する)ことが数学的に保証されています。要素補間式の近似度が十分であれば、粗いメッシュであっても高精度な解を得ることが可能です。

・誤差の具体的な評価が可能である

かつては誤差のオーダーを評価するだけで、誤差そのものを推定することは実際の問題では困難でした。今日のFEMでは、誤差の大きさも(近似値ではあるが)計算することが可能になっています。その結果、あらかじめ要求する精度が得られるようなメッシュを作り出す方法も実用化されています。これは「アダプティブ法」と呼ばれています。

(注:ここでは、メッシュに関する誤差(離散化誤差と呼ぶ)のみを問題にしています。すなわち、メッシュをもとに近似支配方程式が組み立てられるFEM独特の誤差の問題です。非線形解析や動的応答解析などでは、これに加えて方程式を解く部分(繰り返し計算)でも誤差が入る余地があります。また、FEMの前段階での工学モデルのモデル化に関する誤差は、ここでは論じていません。それらは解析にとってはもちろん重要な問題です。)

(2) モデル化に対する柔軟性が高い

モデル化に柔軟性があるとは、簡略なモデル化から精密なモデル化まで、幅広く適用できると言う意味です。解析目的として、概略な結果でよい場合もあれば、詳細かつ高精度な結果が要求される場合もあります。また、コンピュータの処理能力に左右される場合もあります。それに合わせて自由にモデル化できる点がFEMの特長です。具体的には、

・解析対象の大きさ・複雑さを問わない

ミクロン単位のマイクロマシンからジャンボジェット機の全体構造まで、解析対象のスケールは問いません。いかに大規模で複雑な物体であっても、モデル化次第で現実的な解析が可能です。また、手間と時間そしてコンピュータの容量さえ許せば、かなり精密なモデル化を行うことも可能です。

・任意の境界形状を表現できる

個々の要素は単純な形状ですが、それらで構成されるメッシュは事実上いかなる複雑な形状でも表現可能です。また、要素のサイズ(大きさ)に制限はありません。場所によって要素サイズを変えることも自由なので、必要に応じて、不規則な境界は細かく、規則的な境界は粗くメッシュ分割できます。

・さまざまなタイプの構造を扱える

骨組み構造、板シェル構造、平面構造、軸対称構造など、各構造に適したモデル化ができます。もちろん一般3次元構造も扱えます。これらの組み合わせも可能です。これは、要素タイプを使い分けることによって可能になるものです。

・実際的な境界条件を扱える

境界条件についても様々なタイプの条件が適用可能です。例えば、熱伝導解析では、温度固定と熱流束境界に限らず、熱伝達境界や熱放射境界もモデル化できます。複雑な境界形状を正しく表せるということは、複雑な境界条件も(その範囲や分布を)精度良く表現できることにつながります。(その境界でメッシュを細かくすればよいだけです。)

・さまざまなタイプの材料を扱える

材料特性は要素単位で定義するので、要素ごとに材料を変えることが自由です。等方性材料だけでなく、異方性材料も簡単に扱うことができます。これによって、場所によって異なる材料がある場合や、複合材料からなる物体をモデル化できます。また、異方性の方向が場所によって変化する場合も問題はありません。さらに、温度による材料特性の変化(温度依存性材料)や、種々の非線形材料も扱えます。

(3) 汎用性があり、応用範囲が広い

特定の物理現象は、個別の工学が扱う問題ですが、FEMはこれら工学分野にまたがって適用可能な汎用の解法です。これはFEMが、物理的な意味は異なっても共通の入力データ形式を用いて、数学的に統一された表示の支配方程式(連立方程式)を組み立てているからです。計算の大部分は“マトリックス(行列)演算”となりますが、マトリックス演算は、コンピュータ処理に適した規則的な計算であると同時に、プログラミングにも適した計算法です。

入力データ形式は非常に単純で規則的です。基本的には、メッシュと材料特性と境界条件のデータから成ります。出力データ形式も同様に単純で規則的です。これらは要素と節点においてパターン化されたデータとして得られます。また同一のモデルで、一部の条件(物理特性、材料特性、荷重・拘束条件)を入れ替えて解析を繰り返すことは容易であり、様々なケースの比較検討にも威力を発揮します。この簡単な形式で広範囲の問題を処理できる“単純さ”と“一般性”は、FEMの最大の特長と言っていいでしょう。

通常、特定の工学分野別に汎用プログラムが開発されています。しかし上記の理由から、分野にまたがったプログラムも開発されています(例えば、市販の構造解析プログラムの多くは、熱伝導解析機能も含んでいます)。分野別に掲げるとすると、以下のようなものがあります。

各プログラムは、さらにその分野に属する様々なタイプの問題を扱えます。例えば、汎用プログラムと呼ばれるものは、2次元・3次元、線形・非線形、静的・動的の各問題を扱うことができます(もちろん中には、機能が限定されたプログラムもありますが)。実際、このような汎用プログラムが多数市販されているので、これらを導入さえすれば、すぐにFEMをいろいろな問題に適用することができます。解析者がプログラムに必要なデータを入力すること自体は単純作業であり、助手に大部分の作業を任せることもできます。すなわち、たとえFEMの数学的理論や数値計算技法について何も知らなくても、FEMを“ブラックボックス”として利用することが可能です。

2. FEMの問題点

このようにFEMは、工学問題の近似解法として多くの分野で成功を収めてきました。特に固体力学の分野(構造解析)においては、完全に実用的解析手法として定着しています。しかしながら、FEMにはいくつかの問題点もあります。それは上記の特徴と表裏をなすものと言えるでしょう。以下に、いくつか掲げてみます。

(1) コンピュータ投資が必要

FEMの支配方程式は、通常は大規模な多元連立方程式になります。これを解くにはもちろん、方程式を組み立てる際にも大量の計算が必要になり、コンピュータなしでは不可能です。

FEM理論が最初に発表されたのは、1943年と言われています。しかし、この時代にはまだコンピュータが無くてFEMは実用化されませんでした。FEMが実用化に至った(プログラムが開発された)のは1950年代中期であり、まさしくコンピュータが普及し始めた頃に一致しています。その後のFEM(プログラム)の発展と普及は、コンピュータの進歩とともに歩んできたと言って過言ではありません。

従ってFEMは、解析手法というよりは“ソフトウェア”そのものであり、ハードウェアであるコンピュータとは密接に関連しています。いつの時代でも、大規模かつ高精度な解析に対する要求があり、そのため大容量かつ高性能なコンピュータが求められてきました。同時に、コンピュータの小型化・低価格化が、新たな解析需要を生み出す結果となったとも言えます。しかしながら、誰もがもっと気軽に解析できるようになるには、ソフトウェアはもちろんのこと、コンピュータのさらなる高性能・低価格化が求められることでしょう。

(2) 精度とコストのバランスの問題

上記の問題に関連して「いくらでも高精度化が可能である反面、いくらでもコストが掛かる」という点が問題になります。ここで言うコストは、もっぱらコンピュータ・コスト(CPU時間、メモリーやディスク容量など)を指します。高精度を求めて精密なモデル化を心がけ、メッシュをどんどん細かくして(あるいは、要素の次数を上げて)いけば、それに連れてコストはいくらでも増大します。

解析できる問題の規模は、コンピュータの容量に制限されます。また、結果が得られるまでの時間は、コンピュータのCPU性能に依存します。その結果、与えられたコンピュータ環境では、解析不可能となる場合もあります。重要なことは、実用的なコストで実用的な精度の結果を得ることです。そのためには、精度とコストのバランスを常に念頭におかなければなりません。

また、FEMモデルを作成する前に、モデル化を考えなければなりませんが、従来(コンピュータの性能の低かった時代)は、FEMモデルの作成の手間とコンピュータの負荷の両面から、できるだけモデルを簡略化する(そのため、工学的近似を多用する)ことが強調されてきました。どんなにコンピュータが進歩したとしても、システムの処理能力に限界がある以上、程度の差こそあれ、現在でもこの忠告は生きています。

(3) ブラックボックスとしての問題

FEM解析(FEA)は工学上の「問題解決ツール 」ですが、その中心となるFEMプログラム(ソルバーと呼ばれる)は、「偏微分方程式の解法ツール 」でしかありません。FEMは「必要なデータを入れさえすれば、方程式が組み立てられ解かれて、簡単に答えが得られる」ことを可能にしましたが、「問題を記述して入力すれば、簡単に解決策が出力される」ということを可能にしたわけではありません。それは現状ではまだ夢の話です。すなわちFEMはブラックボックスに成り得ますが、FEAはブラックボックスに成り得ません。

ここで重要なのは、FEAにおいて特定の問題をFEMに適した形にモデル化すること、得られた結果をFEMに即して加工し解釈をすること、これらはすべてブラックボックスの外にあるという点です。そしてそれらはすべて、解析者の任務であり責任となります。こうした作業においては、FEMの基本的な考え方を理解した上で、その制限や仮定を十分念頭に置かなければなりません。そうでなければ、信頼のおける結果は到底得られないでしょう。現状の市販プログラムは入力データの誤りは指摘してくれても、モデル化の誤りはほとんど指摘してくれません。また、ソルバーによって方程式の解き方に違いがある場合があります。高度な解析になればなるほど、ソルバーが採用する計算アルゴリズムの違いによって、計算結果が異なる場合も現実に存在します。

そう言う意味で、FEMはブラックボックスとして利用可能であっても、その内部の基本的なしくみは最低限学ぶ必要があります。そうでなければ、誤った結果を鵜呑みにしてしまう原因となりかねません。ただし、経験を持った指導者の元であれば、ブラックボックスとして利用することは構わないでしょう。

(4) 汎用性に関する問題

FEMの最大の特長である単純さや一般性は、一方で解析者の設計に対する洞察力を排除する傾向にあります。FEM解析の入力データは、もしコーディングするとすると、単純で規則的ではあるが入力ミスを犯しやすい大量の数値データの固まりとなります。同様にFEM解析の結果も、単純な形式であるが故に、そのままでは評価しづらい大量の数値データの固まりです。そのため、解析者のデータ作成と結果の評価を手助けする、グラフィック環境での前処理・後処理プログラム(プリ・ポストプロセッサ)の利用が不可欠となりますが、一方で、これらの自動処理結果(例えば、きれいなカラーの出力図)をそのまま鵜呑みにする危険性をはらんでいます。

これと対照的なのは、材料力学の公式を利用したり、工学便覧を参照することによる手計算です。この場合は、非常に単純な形状と荷重・境界条件の(または、それらに近似した)部材等にしか適用できませんが、経験と洞察力が要求されるため、的確に設計上必要な値を算出でき、多少の条件の相違も換算したりファクタを変更することで応用が利きます。

また、FEMの『モデル化に柔軟性があって、様々な条件を扱える』という一般性は、裏を返せば、特定の条件(インプット)のもとでの特定の解(アウトプット)が得られることでしかありません。FEM解析ではほとんどの場合、モデル条件を変更すると解析の全部(または大部分)を完全にやり直す必要があります。そのため、「〜ならどうだ?」という検討を行うには、計算を(必要ならプリ・ポストプロセッサの利用も含めて)何回も繰り返す必要があるのです。しかしながら、FEMの優れた特徴の数々は、これらの犠牲をカバーして余りあるものといえます。実際、計算を何回も自動的に繰り返す手法は、「最適化解析」などで実用化されています。

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